安土忠久さんの吹きガラス<後編>

2020/07/15

へちかんだグラスが生まれるまで

安土忠久さんの作品の代表作といえばやはり『へちかんだグラス』が思いうかぶ。
ご存知の方も多いだろうが『へちかんだ』とは飛騨地方の方言で『ゆがんだ』という意味。

言葉では何とも説明のできないへちかんだグラスの絶妙なフォルムは、いったいどうやって生まれたのだろう、、、そんな素朴な疑問から安土さんご本人にたずねてみた。

昔、安土さんの知り合いが遊びにきたときに吹きガラスの体験でグラスを作ってもらったことが。
もちろん初めて作るので均一な形にならないのだが、その中の一つにとても初々しい出来のグラスがあり、安土さんはとても心ひかれたそうだ。
そして、自分でもこんな作品が作れないかとあれこれ模索してみた。
しかし、何度やっても思うような作品がつくれない。

あるときガラスで指を切ってしまい、不自由な手でグラスを作るために吹き竿を回していたら、動きがぎこちないためストレートなラインが出せなかった。
しかし、偶然生まれたこのいびつなフォルムが、以前見た心ひかれるグラスと一致したのだ。
このケガをきっかけに、均一に吹かなければへちかんだフォルムをつくることがわかった。
とはいえ、偶然気づいたものを完成させるためには何度も何度も回し続けなければならなかった。

最初は偶然生まれたへちかんだグラス。
今はできあがりのフォルムをきちんと頭の中で描き、ガラスの厚いところと薄いところができるよう吹き加減を計算しながら回すそうだ。
こうして安土さんは、へちかんだ表情のグラスを自分のものにして世に送り続けている。



  今でも現役で活躍してくれているモールグラス


それから何年か後、安土さんの個展が高山のギャラリーであることを知り、さっそく出向く。
このときに購入したのは片口サラダ鉢。中をのぞくと小さな泡が無数につらなる美しい器を、手から離すことができなかった。
わが家の大事な宝物がまた一つ増えた瞬間である。


そして安土さんとはじめてお話しすることができたのは、直接工房にうかがったとき。
友人への贈り物に安土さんの作品を選ばせていただいた。実はこれはアポなしの突然の訪問。(今になって思うとかなり迷惑な行為、、、)
にもかかわらず、帰りがけには作品と一緒に「りんご、庭でとれたからどうぞ」と。
その気さくな優しさがとても嬉しかったことを今でも忘れられない。


  木々に囲まれた緑あふれる安土さんのご自宅と工房

  ここにくると、時がゆっくりとながれていくような気がする


安土さんの作品をお店で扱いたい

2005年に飛騨古川で『ギャラリー飛騨コレクション』(現HIDA・COLLECTIONくらしの制作所の前身)という家具ショップを始めることになったとき、自分たちの家具の他に、地元の作家さんの作品を一緒に置かせてもらいたいと考えていた。

一番に思い浮かんだ作家さんが安土忠久さんだった。
しかし制作にお忙しい日々を過ごす安土さん。無理を承知の上で仕入れさせてほしいとお願いをしたが、結果はやはり丁重に断られた。しかし、どうしてもあきらめきれず、その後も何度かお願いに行っては断られる、、、をくり返す。

最後にもう一度だけ、とお願いしたときに「わかりました」と。
あまりのしつこさに根負けされたのかもしれない。


田舎の小さな個人店。安土さんのネームバリューがあっても、そんなに売れるものではない。
わずかな常設作品の他に1点2点と注文が入ったら作品をいただきにいく。こんなふうに数が少なくても嫌な顔ひとつされず、いつも丁寧に作品の説明をしてくださる。
この人柄が作品の温かみにつながっているのだろう。


  当時から変わらぬ人気のへちかんだグラス


それぞれの安土硝子のエピソード

それから15年。店の場所も高山市内に移し、ここ数年は安土忠久さんの個展を毎年開催させていただけるようになった。
オンラインショップでも安土さんの作品を取り扱わせていただいている。

そんな中で、あるときは来店いただいたときに、そしてあるときはメール上で、安土ファンから色々なエピソードを聞く機会がある。
「孫が遊びにきたとき、一度へちかんだグラスでジュースを出したら、それからはあのコップで飲みたいって言うの」
「母が生前大切にしていた安土さんのワイングラスを私も使いたくって、、、」
「昔働いていたカフェで使っていた、トールグラスに注いだアイスティーのきれいさが忘れられない」
「息子が成人したので、安土さんのウィスキーグラスで一緒に酒を飲みたい」
などなど、、、。

こういうお話を聞くたびに安土さんにもお伝えする。
すると
「お客さんとぼくの作品のエピソードを聞くと力がわいてきて、制作の原動力になるんだよ。ありがとう!」
と笑顔でこたえてくれる。
やはりここにも安土さんの人柄があらわれる。



  グラスをお買上げのお客さまから、お庭の花とお手紙をいただいたことも



安土忠久オンライン展

ヒダコレではもちろん今年も個展開催を予定をしていたが、新型コロナウィルス感染症の影響で店での開催は断念することになってしまった。
だが、毎年この個展を楽しみにしている安土ファンもたくさんいらっしゃることから、今年はオンライン上で開催することに。
昔の作品も含め、数々のめずらしい作品など、もう制作されることのない一点物が並ぶ予定。
ぜひ、この機会にご覧いただければ、、、そして安土作品とのエピソードをお聞かせせいただければ嬉しく思います。



【安土忠久オンライン展】
2020年7月18日(土)10:00 -  7月31日(金)18:00

※当日スムーズにお買い物できるよう、事前に会員登録をされることをおすすめします。


安土忠久さんの吹き硝子<後編>では、安土さんの制作風景などをご紹介いたします。